2026/11/4

税務調査をシンプルに考える(8)税務署の調査と国税局の調査は、何が違うのか② 調査部での3年間

前回は、規模と調査のやり方の違いを書きました。今回は、私が国税局の調査部にいた3年間の、具体的な仕事ぶりをお話しします。

希望して行った、調査部

私が国税局の調査部にいたのは、2019年から2021年の丸3年間です。国税に入って5年目、30歳のときに異動しました。同期の中でも、かなり早いほうだったと思います。

ここは、自分から希望していた部署です。せっかく国税に入ったのなら、大きな会社の調査をしてみたい。それが自分にとって、大きな経験値になると思っていました。一つの目標が叶った形です。

最初は大変でした。規模が大きいので、どこに狙いをつけて当たりをつけるのか、そこがまず難しいのです。

調査の進め方

調査はチームで行います。2〜3人、大きな案件では4〜5人です。顧問税理士に日程の調整をお願いし、期間は2週間ほど。会議室を押さえていただいて、そこで調査を進めます。

事前に、仕訳データ(会計データ)をいただきます。売上が数十億円以上の会社になると、もう紙の元帳はありません。会社によっては、独自の経理システムが入っています。申告書も分厚く、別表の数が多く、別表四・別表五の調整項目も、たくさんあります。

当たりをつける作業は、データとの格闘

まず、業種に応じて、見るポイントを絞ります。これは、税務署の調査と同じです。損益計算書や貸借対照表を見て、「この科目に着目しよう」と当たりをつけます。

そして、事前にいただいた仕訳データを使います。CSVでもらったデータは量が大きいので、Accessなどに入れて扱うのですが、これが、むちゃくちゃ使いにくいのです。テーブルやクエリなど、ひと通り使えるようにはなりましたが、結局、「Excelで十分ではないか」というところに落ち着きました。

仕訳データをもとに、残高試算表を作る。ピボットテーブルを組んで、前年との比較や月次の比較を行う。今の会計ソフトなら、全部実装されている機能です。それを、当時はExcelで、一から組んでいました。当時は、AIなどありません。

国税には、ExcelやAccessの使い方、仕訳データの解析といった研修が、頻繁にありました。VLOOKUP関数も、当たり前のように打っていました。今は、あまり使わないかもしれません。でも、この経験で、データの地力は、かなり鍛えられました。どういう形に整えれば残高試算表が作りやすいか。いわゆる、データのクレンジングです。

こうして、どの科目が異常値なのかを検知して、当たりをつけます。

実地調査は、聴取から始まる

実際に会社へ行くと、初日は、事業の概況の聴取です。どんな事業なのか、システムはどうなっているのか。話を聞いているうちに、ほとんどの時間が終わってしまうこともあります。

その後も、元帳は量が多いので、どこから当たるかが難しいのです。やり方の例を、一般的な形でお話しします。

稟議書から入る場合
保管されている稟議書を見ます。たとえば、「これだけの広告を打ちたいので承認をお願いします」という稟議書があるとします。それが、経理上、どう処理されているのか。広告費なのか、前払費用なのか、まだサービスを受けていないのか、資産に計上すべきものなのか。そもそも、その広告を発注した実績はあるのか。そうしたところに、つながっていきます。

建設業の現場から入る場合
現場ごとに、請負金額、原価、利益を抽出します。現場ごとの管理が、どの会社にもあるからです。その中で、イレギュラーなものを探します。たとえば、赤字の工事があれば、なぜ赤字なのかを検討します。

請負で受ければ、利益を出そうとするのが普通です。それなのに赤字ならば、請負金額に問題があったのか、かかった原価に問題があったのか。たとえば、本来100円で済んだものを、あえて特定の業者に発注して、150円にしている。この50円の差額は、外注費なのか、交際費なのか、寄付金なのか。そのように、税法上の問題に落とし込んでいきます。

(これらは考え方を示すための一般的な例で、特定の事案ではありません。)

出口が見えない中で、地道に掘る

国税局の調査は、やっていることは地道です。ただ、地道に掘り下げていって、その出口が明るいのか、暗いのか、最初のうちは、まだ分かりません。

その中で、嗅覚のようなものは、かなり鍛えられたと思います。自分で言うのは気が引けますが、嗅覚は高いほうだったのではないかと思います。「このあたりが、課税になりそうだ」というのが、なんとなく分かるのです。

この感覚は、今、税理士として、お客様の決算を見るときにも生きています。調査官が見そうなところ、気にしそうなところが分かる。だから、先回りして整えておくことができる。第1回でお話しした、「調査に耐えられる決算」につながる力です。

おわりに

税務署の調査と、国税局の調査は、規模も、チームも、期間も、データの扱い方も、まったく違います。ただ、共通しているのは、「帳簿の先にある事実を見る」ことです。次回も、続きをお話しします。

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