税務調査をシンプルに考える(4)税務調査は、なぜ「怖くある」べきなのか
国税の組織は、外から見るとちょっと特殊です。今回は、税務調査の「必要性」について、元調査官で、今は税理士の立場から考えたことを書きます。
税務調査の本質は「牽制力」
税務調査がなぜ必要なのか。私は、牽制力だと思っています。
税務署が調査をしなければ、申告納税制度は保てません。国税庁には、適正かつ公平な課税を実現するという使命があります。そのために税務署があり、税理士は、納税者が適正に申告できるようサポートする。立場は違っても、目指す方向は同じです。
牽制力を働かせるという意味で、税務調査は、しっかりやらなければならない部分があります。もし税務署が舐められてしまったら、申告納税制度は成り立たなくなります。やはり、怖さがなければいけない。そう思っています。
質問検査権は、強い権限
私は、国税を辞めて税理士法人にいた頃、調査の立ち会いを6件経験しました。調査される側に立ってみて、改めて感じたのは、質問検査権は、本当に強い権限だということです。
だからこそ、調査官には、それを正義のためにきちんと使ってほしい。そして、行き過ぎた質問検査権の行使は、許されるべきではありません。強い権限は、強い自制とセットでなければならないと思います。
「調査官の質が下がっている」と言われる理由
最近、巷では「調査官の質が下がっている」と言われることがあります。これは、申告納税制度を揺るがしかねない問題です。
ただ、私は今が過渡期だと考えています。
ある時期、公務員の採用が大きく絞られていました。その結果、私たちの30代後半から40代前半の世代は、民間で言えば脂が乗っている年代ですが、国税の中には人数が少ないのです。一方で、その後は採用が一気に増えました。たくさんの若手が入ってきたのに、それをうまく指導できる中堅が足りない。これが、今の状況だと思います。
つまり、構造的な問題なのです。大量に採用された若手が、自分なりに考え、がむしゃらに調査をして、結果を出し、育っていく。そうなれば、質の問題は、ある程度解消されていくと思います。
データとAIが、底上げになる
さらに、そこにデータとAIが掛け合わさることで、調査の質は、ある水準まで戻ってくるのではないか、というのが私の見立てです。
昔の調査は、俗人的な面が強かったと思います。私自身も、社長の懐に飛び込むのが得意でしたし、帳簿の違和感を嗅ぎ分けるセンスのようなものも、ある程度あったと思います。ただ、そうした個人の力に頼る部分が大きいと、調査官ごとの差も大きくなります。
データとAIは、この「俗人的なもの」からの脱却と、相性がいいと思います。個人の経験やセンスだけに頼らず、一定の水準まで底上げをする。日本の公務員にとっては、平均的な質を確保することが、とても大事だと思います。
(第1回で、AIによる調査先の選定は、根本は変わらないと書きました。ここで言っているのは、調査の実務、つまり端緒の発見や突合の部分で、AIが力になるという話です。)
調査は、本来「怖くあるべき」もの
私は、税務調査は、本来、怖くあるべきものだと思っています。
税務署は、「署」です。警察署や労働基準監督署のように、「署」がつく組織は、権限があり、その権限があるからこそ、国が運営されている面があります。日本全体のことを考えれば、そこは厳しくやってほしいと思っています。
それでも、不安を感じる納税者は多い
一方で、税務調査に不安を感じている納税者の方は、たくさんいます。国税の内部組織の運営は、外から見ると独特で、分かりにくいのです。何をどう見られるのか、どう対応すればいいのかが、分からない。
だからこそ、私は、納税者と国税の「架け橋」になりたいと思っています。
税務調査には、双方が納得できる着地があると思っています。調査に対応することは、調査官と争うことではありません。事実を整理して、きちんと説明し、そのうえで、お互いが納得できる形で終わらせる。そこに向けて、納税者の側に立って、橋渡しをする。それが、元調査官で、今は税理士である私が、これから担える役割だと思っています。
おわりに
牽制力を保つために、調査はしっかり行われなければならない。同時に、調査官は、権限を正しく使わなければならない。そして、納税者は、仕組みを正しく知って、適切に備えておく。
この3つがそろって、申告納税制度は成り立っていくのだと思います。私は、その真ん中に立てる税理士でありたいと思っています。
