税務調査をシンプルに考える(5)税務調査は、どうあるべきか
(4)では、税務調査は本来「怖くあるべき」ものだと書きました。では、その怖さは、誰に向けられるべきなのか。今回は、その所感を書きます。
向けるべき先は、悪質な納税者
税務調査の目的は、公平で適正な課税の実現です。ですから、調査は、不正をしている法人に対して、毅然とした態度で臨むべきだと思っています。
たとえば、売上を帳簿に載せないで税金を逃れ、派手な生活をしている法人があるとします。その一方で、真面目に納税している会社がある。真面目な納税者からすれば、「なぜ」と思うのは当然です。そうならないために、悪質な納税者には徹底的に対応する。これは、全体の大前提に立つべきだと私は考えています。
「うちは不正をしています」と、自分から税務署に言う会社はありません。だから税務署は、探しにいきます。今、データベースやAIで洗い出そうとしているのも、そのためです。ここは厳しくやってほしい、というのが、元調査官としての正直な気持ちです。
脱税、租税回避、節税は、別のもの
ここで、整理しておきたいことがあります。脱税、租税回避、節税は、違うものです。
税務大学校の研修で、ある教授が、とても分かりやすい例えで説明してくれました。「立ち読み禁止」の本屋さんの話です。
立ち読み禁止の本屋で、立ち読みをする:禁止されているのに、やっている。これが脱税です。
立ち読み禁止の本屋で、座って読む:ルールの文言は守っている。ただ、「買わずに本を読む」という目的は、立ち読みと同じです。これが租税回避にあたると説明されます。
本を安く買う:同じ本を、本屋ではなく、中古書店やフリマで安く買う。ルールの範囲で、正々堂々と費用を抑える。これが節税です。
脱税は、法律に違反する行為ですから、許されません。租税回避は、法律違反とまでは言えないものの、行き過ぎたものは、法律によって否認され、是正される可能性があります。国は、「座り読みも禁止したい」と考えるわけです。そこで、法律を整備して、抜け道を塞いでいく。これは、これまでも、これからも続くと思います。
ここで大事なのは、脱税も租税回避も、「税金を少なくしたい」という目的は、節税と同じだということです。違うのは、そこに至る手段です。その手段を、税理士と一緒に考える。それが、節税の本質だと私は思います。
(この例えは、あくまで考え方を示すためのものです。実際に、ある取引が節税なのか、租税回避なのかは、事実関係によって、個別に判断されます。)
節税は、利益が出てから
もう一つ、大事なことがあります。節税を考えられるのは、法人税の納税額が出る段階の法人だけです。税金が出ていなければ、節税もありません。
ですから、まずは目の前のことから、着実に事業を広げていく。法人税が出る段階の会社になる。それが、最初の目標だと思います。アグレッシブな節税策は、実際にはそんなに多くありません。できることを、目の前のところから、少しずつ積み上げていくのがいいと思います。
制度は、複雑になるばかり
もちろん、税の制度は、年々複雑になっています。各種の控除、インボイス、消費税の軽減税率、相続税のさまざまな特例。制度が多く、調整も複雑です。
最近は、AIに聞いて、申告書を自分で作る方もいると思います。できる範囲も広がっているはずです。ただ、私が懸念しているのは、「この申告で、税務署に睨まれたらどうしよう」という点よりも、本当は使えたはずの特例や税額控除が、反映されていないケースです。つまり、知らずに損をしてしまう方向のほうが、実際には多いのではないか、と感じています。
「自分でやれば何とかなる」と進めた結果、税理士に頼んでおけばよかった、となるケースは、かなりあるのではないかと思っています。これは、私の実感です。
調査は、公平な世の中のために
少し脱線しましたが、話を戻します。
脱税を取り締まるために、国税は、毅然とした態度で臨まなければならない場面がたくさんあります。私も、そうした場面を何度も経験しました。簡単なことではありません。苦しい場面を乗り越えて、みんなが公平に扱われる世の中をつくる。それを担っているのは、税務職員です。
厳しくやるべきところは厳しくやってほしいし、同時に、納税者が仕組みを知り、適切に備えられるよう、橋渡しをするのが、私たち税理士の役割です。(4)で書いた「架け橋」は、ここにつながります。
